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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)70号 判決 1974年7月15日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する。

理由

当裁判所は、被控訴人の本訴請求を正当であると判断する。その理由は、原判決の理由の一部を左記のとおり訂正するほか、これと同一であるので、その記載を引用する。

原判決理由の訂正部分

一、原判決九枚目裏六行目「民法一二条」の次に「一項」を加える。

二、原判決一〇枚目表七行目以下一二枚目裏八行目までを次のとおり訂正する。

控訴人は、被控訴人が、本件貸付を受けるにあたり、自己が準禁治産者であることを秘し、単独で法律行為ができるように装って借入れの申込をなしたことをもって詐術を用いたものであるとし、更に、本件貸付前の貸付ならびに本件貸付の際における被控訴人の言動をも考慮に入れ、それとの関連において右黙秘をもって詐術に当ると主張する。

準禁治産者が単に準禁治産者であることを相手方に黙秘して法律行為をなしたとの一事のみにより、その黙秘をもって能力者たることを信ぜしめるため詐術を用いたものと解するのは、無能力者保護のために取消権を与えた法の趣旨を無意味ならしめることになるので、相当でない。しかし、準禁治産者であることを黙秘した場合においても、単に黙秘したにとどまらず、その黙秘が、当該法律行為をなすにいたった過程における準禁治産者の能力に関する準禁治産者の他の言動あるいは相手方の言動との関連において、無能力者保護の観点から評価し、保護に値しないと認めうるときは、黙秘といえども、詐術に当ると解するのが相当である。

控訴人が抗弁(一)(1)で主張する事実は、当事者間に争いがないが、この事実は、準禁治産宣告を受ける前の貸付に関するものであるところ、準禁治産宣告後に準禁治産者が単に能力に関し黙認したからといって、その黙秘が右事実に基く能力に関する相手方の誤信を強めるなどの事情の認められないかぎり、詐術にあたるかどうかの関連において考慮すべき事実ではない。また、抗弁(一)(2)(3)の事実は、当事者間に争いがないが、右事実に見られる控訴人の言動は、被控訴人の能力に関するものでないので、黙秘との関連において考慮すべき事実ではない。右のほか、控訴人は、前記黙秘をもって詐術に当ると認むべき事実については、なんら主張しないのであるから、右黙秘は単なる黙秘に過ぎないというほかなく、これを詐術ということはできない。従って、控訴人が被控訴人を能力者であると誤信したとしても、その誤信は、被控訴人の詐術に因るものということはできない。

三、原判決一三枚目表一〇行目「返還義務はない。」の次に、「このことは、控訴人において被控訴人が無能力者であることを知り得ない事情があることにより、差異を来すものではない。」を加え、同裏二行目から五行目までの括弧内を削る。

よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であるので、本件控訴は、これを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

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